こちらはフリー乙女ゲームの感想です。
すごく素敵な作品だったのでここでもご紹介させて下さい、特に原作がお好きな方に是非読んでほしい!!!
下記リンク先(ノベルゲームコレクション)でプレイ出来ます
https://novelgame.jp/games/show/6848
「幸福の王子と小さなツバメ」(PC・スマホ / 全年齢)
サークル:恋のモロヘイヤ
配信日:2022年7月31日
価格:フリーウェア
CV:なし
以下ネタバレ含みます。ご注意ください。
こちらは皆様も知ってるであろうオスカー・ワイルドの「幸福の王子」をベースにした乙女ゲームなんですが、幼少期ぶりに触れて改めてこんなに深い話だったのかと感じ入りました。
私はワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」と「サロメ」が好きで、特にサロメは性癖形成にあたって多大なる影響を受けたと断言できます。
彼はエッセイの中で「あらゆる芸術は不道徳である」と言っていて、その言葉にすごく共感したし、この2作品なんてまさにな大筋ですが、それがどうよ。この美しくも哀しい童話は。
善行と自己犠牲の尊さを説いた物語ですが、清廉と神による救済を至上のものとしつつも、それを真正面から受け取れなかったワイルドの複雑な二面性が、世俗にあっけなく負けてしまう結末からもじんわり伝わってきます。
ただどうしてもキリスト教児童文学なんですよね。そりゃそうなんだけど。
敬神的な観点だとTrueENDは紛れもなくハッピーエンドだと思うし、全てを捧げた王子の姿に感銘を受けたというのももちろん正解でしょうけど、高潔な精神に屈する(という言い方は相応しくないですが)ツバメの心情が、宗教意識に乏しい上に不道徳な芸術が大好きな私には正直実感として得にくかった。
その点、このゲームのシナリオが補足してくれている部分ってのが本当に良く出来ていて……!
前半の王子はまさに“幸福”な“王子”であるがゆえの横暴さというか、『自分の話を他人が聞くのは当然だという態度』であって、ツバメは『聞かなきゃいけない気持ちになる』わけです。
硬質で尊大で、ただし非常に神聖なその存在を前にして、小さなツバメは頼み事を聞き入れてしまう。
限りなく純粋だけどあきらかに不健全な関係であり、一種の束縛でもあるんですよね。極端に言ってしまうと信仰と奉仕の押し付けです。
このあたりをより強調したのがまずお見事だなあと。
そして劇作家が言う「役割のない人生なんて、何の意味があるだろうか。」という台詞。
王子の夢と理想に付き合う覚悟を決めさせたものは何かってのがここでストンと腑に落ちました。
役割に身を捧げ、役割をくれた王子には愛を捧げたんだなあ。
この『役割』というキーワードを提示してくれたおかげで、葛藤を経て王子に尽くすことを決めたツバメの愛情と、王子のひたすら無垢な信頼が、ますます説得力のあるものになった気がします。
喜捨の心を持つのが王子の『役割』、その心を届けるのがツバメの『役割』、どちらが欠けても完成しないまさに一心同体ながらこの役割はあくまで公的なものですが、そこに私的な役割というものを匂わせることで甘みを帯びて、乙女ゲームであることがめちゃめちゃ効いてるんですよ……。
その『役割』は私が果たしたかったという後悔がにじむツバメと、ツバメの恋人という『役割』を過去他人が担っていた事実に泣いてしまいそうな王子。
個人的に、AnotherEnd02が1番好きです。
原作では、王子が最後まで「私」としてのツバメへ注意を払いようがないのが、そしてそれこそがこのお話の肝であるのが、とても残酷かつ本当に美しいんですが、私のことも同じように可哀想だと思ってくれないのかと「私」への関心を乞うたツバメに、そうだよ!それでいいんだよ!献身への見返りを求めていいんだよ!!!って拍手した後のAnotherEnd04。染みましたねえ。
以前ビルシャナの感想で、歴史物は「史実」っていう揺るぎようが無い筋書きがある上で、どうIFを展開していくのかがライターさんの腕の見せ所だと思うって書いたんですけど、既存の物語をベースとする場合も同じですよね。
こちらのIFは巻き返しが爽快だし、捨てたもんじゃねえなって夢と希望もしっかりあって、本当に幸せな結末でした。
中途ENDでツバメの本心を小出しにしつつ、負けるハピエンと勝つハピエンを同じ温度感で描いてくれていて、それがすごく素敵。
公と私が絶妙に混じり合ったこのカップルはどのタイミングで報われても美しいです。